テランセア
「オスカー!勝負するぞっ!!」
「朝から御飯の仕度してるのに?」
「む…ならばそれが出来たら「そしたら食べなきゃ駄目でしょ」
毎朝このやり取りなのだから、ほとほと呆れる。
オスカーはため息を漏らしながらも、付き合うのだ。ケビンはそういう男だから。
少しでもこの男に好意を抱いた自分がつくづく不思議に思えてならない。
(全く…友人としてなら、まだしも……ね)
時折見せる、恋人としての力強くも優しいその姿に、惚れたのは確かに自分。
「どうしても…お前が好きだから、出来るだけ一緒に居たいと思ってしまう」
それがまわりに、お前に迷惑をかけてしまうと分かっていても。
素直で、嘘をつくことを嫌うこの男だからこそ、自分は心を許したのだと思う。
「分かったから…その代わり、お昼は近くの池のほとりで…ね?」
オスカーがそう言うと、ケビンはようやく勇む様子を改めた。
「ああ!それならお前の昼食を楽しみにしているぞ!勿論お前と過ごすのもだがな!!」
ぐっと拳を握り、笑顔で言うケビン。
「ふふ、ありがとう」
濁り一つ見せないその笑顔と、明るい言葉の全てが、オスカーに光を齎すように。
皆の朝食を作りながら、既に昼食のメニューを考えている自分に、思わずオスカーは苦笑した。
昼、天気も良く、小鳥が可愛らしく鳴いているのが聞こえてくる。
池のほとりは静かに揺れていて、時折魚が透き通った水中を泳いでいるのが見えた。
「たまには、こういうのもいいね」
「ああ!オスカーとならどこでも俺は楽しいぞ!!」
「…少し声のトーンを落としてくれるといいかな」
「む?ついお前といると、嬉しくて元気が出てしまうのだ」
「そう……」
それは嬉しい。だが、あまりこんな穏やかな時間に、大声と言うのもどうかと思った。
「お前の作ってくれたものは、やはりおいしいな。このサンドイッチ、今までの中で一番うまいぞ」
「それ、僕が何か作るたびに言ってるよね」
「そうか?まあ、それだけ美味いのだから仕方ない!」
「ふふ…」
思わずくすりと笑い合う。そして、ふと目が合って、そっと目を閉じて。
「……」
ちゅ、と一回だけ、交わされるキス。
いくら大声を出しても、やはり口付ける時は静かにしなければできない。
それもあるのか、オスカーはケビンとのキスが好きだった。
「…何だか、くすぐったいね」
「俺は嬉しいぞ」
「それもあるけど」
幸せ、ってきっと、こういうことを言うのだろう。
平和で、血を流す必要のない世界で。
そんな世界で、好きな人と二人。こんな穏やかな時間を過ごせることが。
「僕は、こうしている時が一番好きだな……君と、こうして」
「そうだな。俺は一日中、こうしてお前といられたらそれで幸せだ!」
「ありがとう…僕も」
そう言い合って、笑って、キスをする。
(本当に……不思議なくらい、好きなんだ…)
ケビンの素直で綺麗な、言葉、仕草、姿どれもが。
「何だかこうしていると眠くなってくるな…」
「そうか?このまま寝ると風邪をひくかもしれん。…よし、鍛錬するぞオスカー!」
「…え?」
何故、ここで鍛錬とかいう言葉が出てくるのか。
「だって、こんな所で…第一、武器持ってないし、」
「いいだろう、木の棒くらいある!ほら、立てオスカー!!」
いざ尋常に勝負だ、と叫ぶケビンに驚いたのか、枝に止まっていた小鳥が一斉に逃げた。
「……君ってほんと…」
「ん?ほらやるぞ、オスカー!!」
さっきまでの恋する気持ちがすうっと冷えていくのを、オスカーは素直に受け止めていた。
やっぱり、ほどほどに好きになるべき相手だな、と思わずにいられなかったのも、また事実なのであって。
(ほどほどに。…うん、ほどほどに好きでいよう)
オスカーは、人知れずそう思うのであった。
ちなみにそれはもう数十回以上も思ったことである。
End
ケビンは本当に率直で、やっぱり素直なことは何よりも好かれる要素で。
ただちょっとそれが行き過ぎて、煩いってなっちゃうの(汗
オスカーってやっぱりケビンの前では僕って言ってますよね。
唯一気が抜ける相手ってことなんだろうなって思うと実に萌え ま す よ ね
「私」から「僕」って…可愛すぎですよ兄さん……! 2013,7,8
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